グレースタイル 【文豪×奇才の魔改造が行き着く先は究極の自己投影】人間失格 壊 二ノ瀬泰徳
m9パール
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第一話の画像を使ったレビューはこちら

※ネタバレ多数ですので記事をたたんであります

太宰治の「人間失格」についてはもはや説明不要だと思うので、作者の説明を少々。
といっても、例のインタビューで彼の人となりを知っている読者は多いだろうし、作風について少し語ってみることにします。

彼にはデビュー作「魔女の騎士」や過去に描いてきた読み切りで共通していることがあります。

それは主人公の内面のどろっとした問題を敵として出し、それを打破することで新しい自分となる展開です。
簡単に言い換えれば、悩みをぶっ飛ばして変わってやろうぜ、ってことなんです。

今作に収録している読み切り、「病みうさぎ」でも同じことが描かれます。ほんの少し過去作と毛色が違うといえば、主人公が自らの悩むを破るだけでなく、同時に肯定することでしょうか。
世間を欺くためにつけていた道化の仮面を外した主人公・因幡に対し、ヒロインは「この先どんな因幡さんになってもアナタの事を見てくれる人は必ずいますよ」といって物語は終わります。
仮面を外して本当の人間となれる。これは二ノ瀬先生が出した一種の答えなのだと思います。

インタビューの影響からか触手一辺倒の作風だと思われがちですが、作中で言うべきことは言っており、一見色物に見えがちながらも、少年誌的な作風をしっかりと持ち合わせているのが二ノ瀬泰徳なのです。

さて、「人間失格 壊」。
原作もそこそこ短いですが、今作も全4話のため展開をかなり簡潔にまとめてあります。
そのため、原作とキャラ配置がやや違ったり。
例えば、渋田は原作では大人になった葉蔵を監視する役目で最後の最後まで彼の世話を焼きますが、こちらでは幼少時にちらっと出てくるだけ。

原作での寝取られ女房ヨシ子は、壊では少年時代の葉蔵の相方として登場。
売春させられ、睡眠薬を飲んで自殺、と原作よりも悲惨なラストに。その際、葉蔵も自殺を図ったのですが生存しています(ツネ子のエピソードが混じっているわけです)。それどころか、葉蔵が自殺を図らなければヨシ子は生きていたという衝撃の事実まで。
これが一話の間に描かれているので、悲惨陰惨の凝縮っぷりにちょっと吐き気がするなど。

そして、一番変わっているキャラは竹一です。葉蔵の仮面の下に気づき「ワザ、ワザ」というところは原作そのままですが、壊の竹一は葉蔵が自殺を図った後や大人になってからも少年時代の姿のまましばしば登場し、その都度、葉蔵の心を揺さぶります。
ラスト、精神病棟から逃げ出す葉蔵の道化の仮面を外すのも竹一の役目でした。

この竹一は葉蔵自身の心の存在、隠していた人間でない自分の比喩的存在であり、妄想の産物です。

s185.jpg

もっとも竹一という実在の存在がいたことはラストシーンの写真のカットを見る限り明らか。

s186.jpg

では、どこから葉蔵が竹一を自らの鏡と思い込んだのか。

おそらく竹一が葉蔵の本当の絵を見たときからそうだったのだと思います(どこからが妄想の竹一かは意見が分かれるところだと思うのだけど)。
「君は偉い絵描きになる」

ありのままの自分を曝け出せる絵描きになりたい。なれるはず。
ですが、ありのままを描いた作品(漫画)は世間に通用せず、葉蔵はますます人間を無くしていくのでした。

そこで会ったのが堀木。堀木は葉蔵にごくごく大衆向けな原作を書いてやり、それがヒット。
葉蔵はますます自分というものを無くし、仮面を深くかぶり続けます。
自分の罪悪と理解しがたい人間から葉蔵は逃げ、酒と薬に安らぎを求め、原作同様最後には精神病棟へ。

この後、原作での葉蔵は最後は精神病棟を退院したものの、離村で赤毛の醜い女中に数度犯されながら、幸も不幸もなずただ一切を過ごすだけとなります。
しかし、壊では精神病棟を抜け出すこと、人間の住む世間という地獄から離れることに成功した葉蔵は人間でない本当の自分になることで平穏を取り戻したのです。

どちらの葉蔵も最終的にはただ一切が過ぎていくだけの停滞状態になったことには変わらないのでしょうが、こちらの葉蔵にはまだ時間が動き出す可能性があるような気がしてなりません。

「いまは自分には、幸福も不幸もありません」。この一文が抜けているあたり、壊の葉蔵にはまだ幸も不幸も待ち受けているのではないかとも思えます。
事実、最後の葉蔵の笑顔は幸福そのものでした。

今作の連載時に行われたインタビューで言っている通り、二ノ瀬先生が葉蔵に自分を見ているのならこのラストも納得。
彼にはまだまだ幸も不幸もあるのだから。

葉蔵というもう一人の自分を描き、壊し、打ち破った二ノ瀬先生が前に進めることに期待しています。

細かい部分や漫画的表現や妙な背景の小ネタといった違いで原作の風味が壊れてしまっている部分はあるものの(自分はこれら小ネタが大好きですが)、話の大筋や葉蔵といった存在は原作をしっかりとなぞっており、その上、作者の真摯な思いがそこかしこに散りばめられた今作。
良作かどうかは分かれるところでしょうが、怪作の類に入ることは間違いないため、是非とも多くの人に手にとってもらい、個人個人で評価をしてもらいたいところ。
そして二ノ瀬泰徳という存在を認識してもらいたい。切実に。

※漫画的表現とは主に触手のこと。壊では、葉蔵へ纏わり付く世間の目や感情、女といった不可解なものを触手で演出している。なんだかわからないけど、自らに纏わり付くものを絵的に表現するための触手チョイスであり、原作の雰囲気ぶち壊しというわけではない。もちろん、合わない人には合わないだろう。

画像の出典:【人間失格 壊 第1巻 二ノ瀬泰徳×太宰治 チャンピオンRED連載 秋田書店刊】
コメント
この記事へのコメント
お初のコメントです。
原作の青空文庫を読みつつ本作を読んでみましたが、
確かに原作の枠を壊しつつも作品自体の本質が全くぶれていないのには驚愕です。
むしろ漫画的表現のおかげで焦燥感や絶望感のインパクトが凄まじいことになっていい意味で度肝を抜かれました。
それでいてちゃんと二ノ瀬先生の真摯な思いや主張も盛り込んでいるあたりやはり鬼才としかいいようがありません。
確かに万人に受け入れられる作品ではありませんが、毛嫌いせずに読まれてほしい作品ではありますね。

P.S.
そういえば二ノ瀬先生の作品を見てちょっと連想した作品が昔ヤングマガジンで連載していましたBLACK BRAIN(作者:サガノヘルマー)です。
この作者の漫画に対する情熱の向け方にはなんとなく二ノ瀬先生に通じるものがあったような気がします。
2010/07/27(火) 18:55 | URL | randomize #9WR8NSoM[ 編集]
コメントありがとうございます。

原作未読でも楽しめますが、既読の場合、比べながら読むと、壊の壊しっぷりとぶれなさのバランスに本当に驚きますね。

魔女の騎士のようなあとがきを期待していたのですが、壊の4ページに渡る先生のメッセージには心が震えました。

合わないのならしょうがないですが、読まないという選択肢は取って欲しくない。とりわけ漫画好きの方々には。
そういった力を持った作品だと思われます。

サガノヘルマー先生の作品、調べてみましたが、パワーがすごいですね。
今度、古本屋で探してみます。
2010/07/30(金) 17:38 | URL | しんせん #-[ 編集]
以前から楽しく拝見させていただいてます。初コメです。

読みました。すばらしく真摯なレビューですね。感動しました。
落ち込み気味らしい二ノ瀬先生にも是非読んで欲しい内容です。
(携帯だとこのサイトは見れないのでしょうか)

実写映画を意識しての今回の「壊」だと思うんですが、
漫画の方はもっと続いて欲しかったです。
シグルイほど行かなくてもこの作者ならもっと膨らませられると思うのです。
上下巻でコミックスが出ると思ってただけに実に無念でした。

こないだ古屋兎丸の人間失格を買おうとした友達に、
ついでに「壊」も買わせてあげました。
いいことしたあとは気持ちが良いものですね。
感想はまだ聞いてませんが。
2010/07/31(土) 22:00 | URL | すた☆すく #-[ 編集]
はじめまして、いつもありがとうございます!

携帯だとうちのサイト見れますが、二ノ瀬先生には読んで欲しいような欲しくないような……。いや、でもやっぱり読んで欲しい……かな。

幼少期、青年期どちらもあと一話ぐらい欲しかったですね。でも、そうなると一話ごとの濃度が気になります。

>>こないだ古屋兎丸の人間失格を買おうとした友達に、
ついでに「壊」も買わせてあげました。
( ゚д゚)

( ゚д゚ )

多分感想はこないと思うなっ☆
2010/08/04(水) 15:12 | URL | しんせん #-[ 編集]
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